顔の赤みや火照りに悩んでいませんか?それは「酒さ(しゅさ)」という皮膚疾患かもしれません。この記事では、酒さの原因から治療法、そして日常生活で気をつけるべきポイントまで、詳しく解説します。

酒さとは?

酒さは顔の中心部に現れる慢性的な炎症性皮膚疾患です。主な症状は以下の通りです:

  • 顔面の持続的な赤み
  • 紅潮・火照り
  • 毛細血管の拡張(赤い血管が見える)
  • ニキビに似た赤い発疹や膿疱
  • 皮膚の刺激感・灼熱感

酒さは特に色白の方に多く見られ、30代以降に発症することが多い疾患です。

酒さの原因となる要因

1. ステロイドの誤用・長期使用

実は、ステロイドは酒さの治療には使われません。むしろ逆効果です。

顔面への局所ステロイドの長期使用は「ステロイド誘発性酒さ」という医原性疾患を引き起こします。これは本来の酒さとほとんど区別がつかないほどの症状を示します。

ある研究では、1ヶ月以上顔面にステロイドを使用した200名の患者を調査したところ、平均使用期間は約20ヶ月で、紅斑、毛細血管拡張、乾燥、色素沈着などの副作用が認められました。

ステロイドが問題となる理由:

  • 皮膚の血管を拡張させる
  • 紅潮、赤み、感受性の増加を引き起こす
  • 皮膚を薄くし、損傷や刺激を受けやすくする

2. 薬剤による影響

以下の薬剤は顔の赤みや酒さを悪化させる可能性があります:

避けるべき薬剤:

  • 局所ステロイド(特にフッ素化ステロイド)
  • 血管拡張薬(カルシウムチャネル拮抗薬、ED治療薬、硝酸薬など)
  • ナイアシン(ビタミンB3のサプリメント)
  • 一部の降圧薬
  • 一部の化学療法薬

重要: 現在服用中の薬について心配な場合は、自己判断で中止せず、必ず医師に相談してください。

3. 生活習慣・環境要因

酒さの症状を悪化させる「トリガー」には以下があります:

  • 紫外線:最も一般的なトリガー
  • 温度変化:極端な暑さや寒さ
  • 感情的ストレス:怒り、恥ずかしさ、不安
  • 食事:辛い食べ物、熱い飲み物、アルコール
  • 運動:体温上昇による紅潮
  • 刺激の強いスキンケア製品
  • ホルモン変動:特に女性において重要なトリガー

3.1 女性ホルモンと酒さの関係

女性の場合、ホルモン変動が酒さの重要なトリガーとなります。

研究結果:

約90,000名の女性を対象とした大規模研究(Nurses' Health Study-II)では、以下のことが明らかになりました:

  • 閉経後ホルモン療法(HRT)の使用で酒さリスクが1.32倍に増加
  • 経口避妊薬の使用で酒さリスクが1.15倍に増加
  • 10年以上のホルモン療法使用ではリスクが1.78倍に上昇
  • 閉経前の女性は閉経後の女性より酒さのリスクが高い

ホルモン変動が起こる時期:

  1. 月経周期
    • 月経前症候群(PMS)の時期にエストロゲンが急降下
    • 黄体期のプロゲステロン上昇により赤みや敏感さが増加
    • 多くの女性が月経周期の特定の時期に症状悪化を報告
  2. 閉経周辺期・閉経期
    • 酒さは45〜60歳の女性に最も多く見られる
    • エストロゲンとプロゲステロンの減少が症状に影響
    • 閉経周辺期のエストロゲン変動に伴うプロスタグランジン産生の増加が酒さのリスク因子
    • ホットフラッシュ(ほてり)が酒さのフレアアップを誘発
  3. 妊娠中
    • ホルモン変動により症状が改善する人もいれば、悪化する人もいる
    • 個人差が大きい

エストロゲンの保護的役割:

エストロゲンは皮膚の健康に保護的な効果をもたらします。閉経周辺期のエストロゲン低下が、この時期の女性に酒さが多い理由の一つと考えられています。

対策:

  • 月経周期と症状の関連を記録し、パターンを把握する
  • 閉経周辺期・閉経期の症状がひどい場合は、婦人科医に相談
  • ホルモン補充療法については、酒さへの影響も含めて医師と相談
  • ストレス管理がホルモンバランスにも良い影響を与える

4. 美容医療の過度な施術

意外かもしれませんが、美容医療の過度な施術も酒さや肌の赤みの原因となることがあります。

注意が必要な施術:

マイクロニードリング、ダーマプレーニング、CO2レーザーなど「肌を削る・傷つける系」の美容施術

これらは小さな針で肌に穴を開けたり、肌の表面を削ったりして、わざと傷をつけることで肌の再生を促す施術です。美容目的では効果的ですが、酒さの方には逆効果になる可能性が高いです。

たとえ普段は症状が落ち着いている方でも、施術によって急に赤みがぶり返したり、治るまでに通常より長い時間がかかったりすることがあります。酒さ肌にとって「肌への刺激」そのものがトリガーになるためです。

ケミカルピーリングに関しては、多くにアルファヒドロキシ酸やグリコール酸が含まれており、これらの成分はシワ、色素沈着、傷跡の治療に効果的ですが、酒さ患者にとっては問題となる可能性があります。ケミカルピーリングは一般的に避けるべきで、その剥離作用が赤みと皮むけを引き起こすためです。

実際、CO2レーザー治療後に酒さが発症した症例が報告されています。フェイシャル若返りのためのCO2レーザー治療後、治療した部位にのみ膿疱性酒さが出現しました。

マイクロニードリングは酒さ傾向のある患者には適していません。皮膚への外傷がフレアアップや長期的な赤みを引き起こすことがよくあります。

適切に行えば有効な場合も:

すべての美容医療が悪いわけではありません。酒さの治療として適切に使用されるレーザー治療もあります。重要なのは、酒さに精通した専門医による、適切な施術と濃度の選択です。

低濃度で慎重に行われるケミカルピーリングや、血管を標的とするレーザー(パルスダイレーザー、IPLなど)は、酒さの赤みや血管拡張の治療に効果的な場合があります。

亜鉛華軟膏は酒さに効果があるのか?

酸化亜鉛の効果

亜鉛華軟膏(酸化亜鉛軟膏)には以下の作用があります:

  1. 抗炎症作用:穏やかに炎症を抑える
  2. 収れん作用:毛細血管を収縮させる
  3. 保護作用:皮膚をバリアで保護する
  4. 紫外線防御:物理的な日焼け止め効果

研究結果から分かること

経口硫酸亜鉛の研究: 経口硫酸亜鉛100mgを1日3回投与した二重盲検試験では、酒さ治療の選択肢として安全で効果的であり、重大な副作用もないことが示されました。

ナノダイヤモンド-酸化亜鉛の研究: 酒さまたは酒さ様症状を持つ患者35名を対象とした8週間の研究では、94.7%で赤みの改善が認められました。

酸化亜鉛の利点:

  • 抗炎症作用により赤みと刺激を軽減
  • 物理的な日焼け止めとして紫外線から保護
  • 皮膚バリアを形成し、環境刺激から保護
  • 非コメドジェニック(毛穴を詰まらせない)
  • 敏感肌にも優しい

日本での使用実態

日本では、亜鉛華軟膏は主にステロイド誘発性の酒さ様皮膚炎に対する補助的治療として使用されています。

使用のタイミング:

  • 脱ステロイド直後の浸出液が多い時期
  • 収れん作用で毛細血管を収縮させ、赤みを改善

注意点:

  • 亜鉛華軟膏には肌を乾燥させる働きがある
  • 浸出液が収まった後は保湿の段階に移行する必要がある
  • 長期使用には注意が必要

酒さの適切な治療法

1. 基本的なスキンケア

  • 優しい洗顔料を使用する
  • 保湿を十分に行う
  • 日焼け止めを毎日使用(物理的な日焼け止めが推奨)
  • 刺激の強い製品を避ける

避けるべきスキンケア成分:

  • 過酸化ベンゾイル(ニキビ治療薬に含まれる成分)
  • グリコール酸(ピーリング化粧品に含まれるAHA)
  • プロピレングリコール(化粧品の保湿剤や溶剤)
  • レチノイド(レチノール、トレチノインなどのビタミンA誘導体)
  • 香料
  • ラウリル硫酸ナトリウム(多くのシャンプーや洗顔料に含まれる洗浄成分)

2. 医学的治療

局所治療薬:

  • メトロニダゾール
  • アゼライン酸
  • ブリモニジン(血管収縮剤)
  • イベルメクチン

経口薬:

  • テトラサイクリン系抗生物質(主に抗炎症作用のため)
  • ドキシサイクリン
  • 重症例には経口イソトレチノイン

光治療:

  • レーザー治療
  • IPL(光治療)
  • 毛細血管拡張や赤みに効果的

3. 生活習慣の改善

トリガーを避ける:

  • 日記をつけて自分のトリガーを特定
  • 日焼け対策の徹底
  • ストレス管理
  • 辛い食べ物やアルコールを控える
  • 極端な温度変化を避ける

まとめ

酒さは慢性的な疾患ですが、適切な治療とケアで症状をコントロールすることが可能です。

重要なポイント:

  1. ステロイドは使わない:顔面への局所ステロイドの長期使用は酒さを悪化させる
  2. 薬剤を見直す:現在服用中の薬が症状を悪化させていないか医師に相談
  3. 亜鉛華軟膏の活用:特にステロイド性酒さ様皮膚炎の脱ステロイド期に有効
  4. トリガーを避ける:日焼け、ストレス、刺激物などを控える
  5. 優しいスキンケア:刺激の少ない製品を選び、保湿と紫外線対策を徹底
  6. 専門医に相談:症状が改善しない場合は皮膚科専門医の診察を

酒さは見た目の問題だけでなく、心理的・社会的にも大きな影響を与える疾患です。適切な治療を受けることで、多くの患者が生活の質の向上を実感しています。

顔の赤みや火照りが気になる方は、まずは皮膚科を受診し、自分に合った治療法を見つけることが大切です。

※この記事は医学的情報を提供するものであり、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

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